2010年2月7日日曜日

レフトハンダーズのユーウツ② 〜すぐそこにいるマイノリティ〜

左利きピーポーの苦労を知るべく左利き用ベースを練習する!
という公約を守るべくこの間東京に行った折につけ、お茶の水の楽器屋街に向かったが、左利きベースなど実際ほとんど見当たらなかったから気に入ったものが見つからず結局買えなかった。

ま、とんだ茶番である。

何件も見て回っているとたまーにあったりもしたけれども、おそらく全体の本数に対しては1%以下だったと思う。
ギターも然り。
各ギター会社のカタログを見ても、名手たちのシグネチャー・モデルだらけで(それ自体は別におk)、左利き仕様モデルの有無すら書いていないものが多い。

さらに厄介なのが教則本だ。
わしはけっこう楽器教則本の類が好きで、新刊が出ると楽器屋とかで立ち読みしていろいろチェックしているのだが、どうやら日本では、レフティ用のベース(ギター)演奏指南書はほぼ皆無のよう。
たとえば初心者向けの教則本の多くに載っている指板-音程対応図だが、これを使って左利きベースの運指を学ぼうとすると、本を回転させて見なければならないだろう。
ベース(ギター)界は、徹底してレフティ・ブロッキンなのである。
これでは、「わかったよ、右利きで弾けば良いんだろ!」となる左利きピーポーも多いに違いない。
ああ、我々多数派が見過ごしているバリアが、こんなところにあったのだなあ。
バリアフリーが叫ばれる、この時代に。


人類の歴史を通じて左利きが少数派なのはなぜか?
これには諸説ある。

面白いのは「戦士と盾」説で、左利きの戦士は盾を右手で持つから、左にある心臓を守れず死ぬ可能性が高い、というもの。
まあ、ヘリクツですな。
どっちにしても、ドタマかち割られたら死にますがな。
古代から職業が戦士でなくとも右利きが多数派だったし、現代は剣と盾で戦う時代ではない。
それでも、常にレフティは少数派だ。
そもそも、この説は左利きが親から子へ遺伝することを前提にしているが、親が左利きだからといって子供の左利き率が上がるわけではない。
つまり、利き手は遺伝するものではないのだ。

では、何が左利きの原因なのだろう・・・という疑問自体がバリアだ、ということを我々は悟らねばならない。
正しい疑問は「人の利き手はいかにして決まるのだろう?」だ。

一説によれば・・・母の胎内で、胎児は自分の手の指をなめる。
そのとき、なめていた方の手が、出生時の利き手になるそうだ。
おお、生命の神秘! とは思うが、それが真実だとしても、「なぜ大半の胎児は右手の指をなめるのか」がわからん。
我々の近縁種であるチンパンジーには利き手の偏りが無いというし・・・にわか雑学ブログの駄文ごときでは解明できない、人類の大いなる謎なのだろう。


というわけで、遺伝性ではないが先天性ではあるらしい、利き手というもの。
しかし、他のどんな動物よりも学習期間が長いのがホモ・サピエンスだ。
そこには常に後天的要素がある。

たとえば、イギリス王室のレフティ率が並外れて高いのは、やはり「子は親を見て育つ」からだろう。
さらに興味深いのは、わしのBボーラー時代のチームメイト、中→高進学時に水球から籠球へ華麗に転向し、フィジカルなディフェンスと左手から放たれる高確率のジャンパーでベンチスタートながらHG高校バスケ部の強さを支えた名スイングマン、タクヤ・カネサワのケースだ。
彼の話を覚えている範囲では・・・「生まれた時は右利きだったらしい。ところが、兄貴が左利きだったため、真似しているうちにすべてが左に。が、鉛筆を持ち始めてから、書くのは右に逆戻り。ほぼ同時に、箸を持つ手も右に変わったみたい。だけど、野球のグローブとかは左利き用しか家に無かったから、いまだにスポーツはすべて左」だそうな。
なるほど。「環境が作る」部分もあるのだな。

そしてなんといっても左利きといって忘れちゃいけないのがイエロー・ジャケッツやジャコ・パストリアス・ビッグバンドで活躍するベーシスト、ジミー・ハスリップ氏だ。
彼の演奏する映像を見ると、ベーシストならば平衡感覚がおかしくなりそうになる。
というのも彼はただ単に左利きというだけではなく、ボビー・ウォマック式に、右利き用のチューニングをそのままひっくり返した状態でベースを弾いているからだ。
つまり一番太い弦が最下部に来るというわけだ。
この人は6〜7弦ベースを弾くので、非常にファットでストロングなローB弦が手首から最も離れた場所にあるのはかなりキビシいハンデとなると思うのだが・・・
またエレクトリック・ベースでは、音程が下降するフレーズを演奏する際、ワンストロークで複数の弦を弾くことで省エネな発音をする「レイキング」というテクニークを多用するが、もちろんこのチューニングスタイルでは封じられた技となる。
すべて一音一音独立したピッキングが必要になるということだ(逆に上昇フレーズでレイキングを使えるとも言えるが・・常套句的な節回しではあまり有効なアドバンテージとは思えないな)。




この映像ではウェザーリポートの名曲"Havona"でのジャコのフレーズを練習しているようだが、驚くべきスピードと精確さだ。
奏法上のハンデをものともせず、右利きベーシストを差し置いて現行ジャコ・フルバンのグルーヴを担うジミー・ハスリップ!すごい!!

だが・・・もしジミー・ハスリップが、利き手を右に矯正されていたら。
技巧派ベーシストとして大成していただろうか?
いや、ジミー・ハスリップだけではない。
ジミ・ヘンドリックスもベイビーフェイスもボビー・ウォマックもポール・マッカートニーも、右利きへの変更を余儀なくされていたら、その生来の才能を発揮できただろうか?

というのも、利き手矯正はメンタル面でリスキーだからだ。


左利きに生まれついた子供を右利きに変える。

この習慣は東アジア、つまり、中国、台湾、韓国、そしてもちろん日本に特徴的なものだ。
揃いも揃って、非科学的で排他的な国ばかりに見えるな。
しかし、かつては欧米にもレフティたちへの激しい蔑視が存在した。

英語では「右」と「正しい」が同じrightで表される。
また、「器用さ」を意味するdexterityという英単語は、ラテン語で「右」を意味するdexterに由来する。
ところが、「左」を意味するラテン語sinisterは、英語で「不吉な」「邪悪な」の意味となっている。
ヒドい話だとは思わんか。

この日本に、そんな左利き蔑視があるかどうか、わしは知らない。
だが、前途に待ち構える社会的圧力を考慮してか、左利きから右利きへの矯正をよしとする習慣はまだあるだろう。
これはやめておいたほうがいい。
子供の内面に深いダメージを残す可能性がある。

自ら進んで、利き手を変更しようと思い立つ子供はまずいない。
ということは、矯正はすなわち強制であり、虐待なわけだ。
そして、そこには親の叱責が必然的に付随するだろう。

ここでひとつことわっておかなければならない。
わしはさっきから繰り返し「矯正」という言葉を使っているが、矯正とは「欠点などを正しく直すこと」である。
左利きは欠点ではないので、この言葉遣いは不適切だ。
意味を考えれば「強制」と書くべきだが、便宜的に使わせてもらいます。
サーセン左利きのみなさん。許されよ

とにかく、もって生まれた本性を、何が悪いわけでもないのに、親に否定される。
それも、人生開始後まもなくだ。
そりゃキツいよな。
これがトラウマになり、吃音を含む言語障害、学習障害、うつ病、などなどの後遺症を残した例が多々報告されているのだ。

「幼児なら矯正は可能」という説があるが、親が「矯正してやろう」と思うのは、「子供が明らかに左利き」だから。
つまり、その時点で利き手は既に定まっているわけだ。
矯正が幼少時に行われるのは、それが「子供が親に逆らえない時期だから」に過ぎない(逆に、大人になってからでも自ら望んでやれば、ダメージを受けずに両手利きになれる。らしい。まあだからこそ「左利きスタイルでもベースを弾けるようになっちゃろう」と思い立ったわけでもあるが)

メンタルな後遺症は当然、生来の能力発揮の妨げとなる。
左利きのままなら活かせた能力を捨てさせられたレフティが、これまで何万人いたのだろう。
こう書いていること自体、残酷なのだが。


わしはレフト・ハンデッドではないがレフト・ウイングドではある。
人類は多様であるべきだし、少数派は少数派として尊重されるべきだ。
多数派独裁という病理を黙って見過ごしちゃだめっす。

グッドサマリタンクラブの人々は、善きサマリア人が助けたのが、当時のパレスチナの被差別少数民族のレビ人だったことを思い出すべきだし、ジャズ系の人だって、ジャズが少数派のアフリカン・アメリカンたちが育んだ文化であったことを忘れちゃいけません。

説教臭くなって申し訳半分です。
ああヒマだ

2 件のコメント:

  1. 左利きで唯一「ああ、不平等だぜベイビー」って思ったのは書道の授業だ!右手で書いてたからへたっぴで、教室の壁にバーっと貼られて金銀銅シールがつけられる書初めが憂鬱だったの。
    そうか、胎児のときに左手をなめたのか。

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  2. おお。書道こそ究極のレフトハンドブロッキンカルチャーですね。左利きで毛筆のときだけ右に持ち換えて達筆な人もいるが、不条理だとは思う。
    とはいえ、それが唯一の不平等ベイビーイベントだったということは、左利き当事者たちはあまり世の中の不公平を気にしていないということなのかな。僕はやたら騒いだがね。ちょっと左利きがうらやましくもあるのさ

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