修論のドラフトが仕上がったので、
ライターの長谷川町蔵さんと慶応英文の大和田先生による話題書「文化系のためのヒップホップ入門」を読んだったぜ。
「入門」というタイトルに相応しく、前半は時系列でヒプホップの基本的な歴史を辿ってるが、さすがは長谷川さんてな感じの独特な視点からのまとめが随所にあって従来からのブラックミュージック愛好家でも随分楽しめるんじゃないかしらと思いました。
(ただ、固有名詞がかなりの密度ででてくるので、まったく音のイメージがつかなかったり背景知識がない人はけっこう辛いんじゃないか・・・でも今はYouTubeもあるしいいのか)
『Wild Style』とかの、ヒップホップ草創期の空気を伝える映画DVDの紹介が素晴らしい。
また、大和田さんはベースを弾く人らしく、ベーシストらしい着眼点がちらほら見られ、そのへんは特に面白かったですね。
とてもうなずけるというか。
ザ・ガメの「Documentary」(2005)からヒップホップに入っていったとこらへんも親近感覚えたな。
あれは名盤つーか、わしも新盤で買ってきいたときはなんか衝撃だった。
トラックはドレー的サウンドスケープ全開で西海岸ギャングスタラップの流儀ど真ん中なんだけど、ナズやブラックソートを思わせるようなシンコペートしまくるラップスタイルという組み合わせで、本の中でも言われていたように、ヒップホップ音楽のボーダーレス化というか、ローカリティが希薄化していく時代の開幕を象徴する1枚だったのかと。
興味深い論点はいろいろあったのだが、全体として一番印象に残ったのはやっぱり「サウスの台頭=ラテンへの先祖返り」という説。
2000年代中盤より、アトランタからリルジョンとかリュダクリスとかTIとかが出てきて、ヒップホップの中心はダーティサウスへと移ってしまったのだが、その流れはリアルタイムで見てても、う〜〜ん、とは感じていたし、それが今でも最新鋭のメジャーリーグヒップホップをなかなか耳に馴染ませられないことに繋がっている。
しかしバウンシーなビートと、ひたすらパーティ礼賛のような中身のないかつ時にはまったくライムもフローもしてなかったりするラップの組み合わせというのがいかに受け入れ難かろうと、それが進化を止めた東海岸のリリシストを置き去りにして数歩先を行っているのは間違いない。
クラブでの再生を基本に考えているところが、もともとブロックパーティでのDJプレイから始まったヒップホップ音楽の創成期のスピリットを継承しているという話にも一理あるし、長谷川さんたちが整理するところの、「ループの気持ち良さを核としたブラックミュージックの本流」の歴史における最先端なのであるという論も頷ける。
そしてカリブ海系音楽の要素を取り入れた曲が増えてるのは、びバップからハードバップへの移行期にアフロ・キューバンが流行したジャズの歴史とも重なる。
結局ブラックミュージックの根底には脈々とラテンのリズムが流れていますよと、そのへんがニューオリンズのセカンドラインファンクのリズムの話とかとも絡めつつ展開してあって、面白い。
要するに、技巧や芸術性が極端に追求された反動として流行ってるのが、レゲトンでもソカでもなんでもかんでも取り入れて、ウェッサイもダーティサウスもイーストコーストもミッドウエストも関係なく客演に呼んで「パーティ!」というハイブリッドなダンスミュージックとしての機能を追求した今のメジャーリーグヒップホッップのスタイルである、と言いますかね。
(でもやはり大好きにはなれないから古参のファンはアンダーグラウンドに走りまさーな。。)
ジャズとの類比は結構でてくるけど、ポストモダニズムとしてのジャズ/ヒッップホップという視点は、やや語り尽くされた感もありながらもやっぱおもろい。
あらゆる物語性を抹消するために、パーカーやガレスピーは昔の小曲から歌を消し、コード進行だけを借りてアドリブしてたわけで、それをヒップホップにも敷衍すると、やっぱ過去のアーカイブから組み上げたトラックの中でフリースタイルするというのがエッセンスちゅうことになりまさーな。
だからメッセージ性とかストーリーテリングの技術とか、そういうのはある意味ヒップホップ音楽にとっては副次的な要素なのかもね。
基本的に叙情詩であると。
ラップに要求されるのはいかに上手いこと言ったるかという機知と押韻の技術ということかね。
ただひとつだけ、ヒップホップトラックメイカーの技術である「フリッピング」を、ジャズの「ブラインドテスト」になぞらえている箇所があるんだけど、フリッピングはやはり演者側の技術なので、ジャズでの対応物は「スーパーインポーズ」というところにならないだろうか。
別の曲のメロディとか名手の名フレーズをアドリブの中にぱっと取り入れるあれね。
個人的に好きなジャズの要素なのでここは譲れまへんな。
いずれにしても、おもろい本であります。