2012年2月7日火曜日

もう代案は(本の感想です

話題書、藤沢数希「日本人がグローバル資本主義を生き延びるための経済学入門」を読んだ。

金融日記で有名な(元)クオンツであられる著者。
この人の本は以前にも読んだことがあるが、相変わらずクリアで歯に衣着せぬ文体で読みやすさには素晴らしいものがあった。

まあシュウカツにも関連しつつ、日経の経済記事とかもっとちゃんとわかりたい思いもあって購入に至ったのだが、正直今まで持っていた知識から何かが増えた感というのはあんまない。
入門という割にははっきりと著者の主張が入っているので、単純な基礎知識のまとめというよりも、投資銀行のトレーダー的な観点からマクロ経済(学)を語りなおした本という側面が強いと思った。
たとえば派遣社員の給与を正社員よりも高く設定すべきという主張などは、金融商品の開発におけるリスク・プレミアムの考え方に基づいていると思われる。
いろいろ繋ぎあわせると、結局著者の考えかたの根底にあるのは、市場メカニズムについて知り尽くした投資のプロが何千何万といてギリギリのラインでしのぎを削っている通常の証券市場では価格は常に適正に決定されるのにたいして、経済学さえ大して勉強してない財務官僚が関わる(お金の価格としての)金利は、その決定に十分市場原理を活用できないから先進諸国で金融/財政政策がうまくいかないんだ!というアイデアだろう。
米国の不動産バブルも国策の失敗から説明できるし、ユーロ危機だって結局は「ユーロ(共通通貨)」を作ったのが悪かったんだと。
このへんのロジックは極めて明解です。

市場メカニズムは十分な知識をもった合理的なプレイヤーがたくさんいてこそ適切に機能するのだと。いうことですね。
その意味で、例えば炭素市場なんかはかなり脆弱なんじゃないだろうか。
需給バランスを考えないまま、CDMややJIで次々と排出権が創出されているため、適切に価格が決定されない。
しかも京都議定書の約束期間終了後のクレディビリティがイマイチな状況で、今年はいろんなクレジットホルダーが京都メカニズムで発行された排出権を一気に売りに走り、約束期間終了直前に価格が暴落し紙切れ同然になる可能性だってある。
むしろ今世界で中心的になっているのはEU域内取引の市場であり、京都議定書終了後にこっちとの互換性を持たせられるかどうかが京都メカニズムのクレジットの明暗を分けるだろう。←

国際環境ガバナンスに市場原理を利用しようというアイデアは人気だが、適切な運営のためには高いファイナンス知性を持ったプレイヤーを確保することが先決でしょう。
いや、そもそも環境ガバナンスに用いられる市場における行動の合理性とは何かを突き詰めるところからはじめるべきかもしれません。
ある意味排出権取引はin vivoな巨大社会実験とも捉えられうる (Callon 2009 "Civilizing markets"など参照)。

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